沖田面の大樹(秋田県上小阿仁村)

(雪の山越え:秋田県上小阿仁村)

=真澄記=

村の老夫が言う。

昔、この里は家もない深山だった。小阿仁川より西に、幾千年たっているかわからない大樹があった。

この大樹には、地上から一丈上のところに空洞があって、その堅固なことは石のようだった。また、節くれも多く、遠くからこの大樹を見ると、耳、目が自ら備わって人面のようだった。

きこり、山賊どもが注連縄(しめ縄)を引き渡して、いるも願をかけていた。幾重にも、上下にも注連縄を貼っているので、上は白髪のように、下は白髭のように、木の皮は剥げ落ち、風雨で気の肌は青白く、まことに翁の面のようであった。

人々はこれをもって翁面と言った。

その後、きこり山賊の小屋が建ち、終日人が居るようになった頃、翁面は里の名となった。今はそれが変化して「沖田面」となった。